日経サイエンスArithmer’s Eye 特別対談


独自の戦略でAI立国を目指す

現代数学を活用し質の良いデータを確保


モノづくり大国として製造現場の高度なノウハウを持つ日本。良質なデータを駆使したAI(人工知能)システムの開発は豊かな地域社会を生み出すことにもつながる。


質の良いデータで世界に勝つ

衆議院議員 山口俊一(Yamaguchi, Shunichi)1990年に衆議院議員初当選。現在, 同10期。第二次および第三次安倍内閣において科学技術政策,宇宙政策,情報通信技術(IT)政策などを担当する内閣府特命担当大臣を務めるなど,国の科学技術振興に強いリーダーシップを発揮してきた。


大田 長年,日本の科学技術にかかわってこられた山口さんは,数学の重要性についても深い見識をお持ちです。私が東京大学で最初の数学ベンチャーであるArithmerを設立する際にも,たくさんのアドバイスをいただきました。

山口 世界で熾烈なAI(人工知能)研究競争が繰り広げられるなか,大田さんはそのなかで日本が勝つための明確なビジョンをお持ちでした。初めてお会いしたときに技術的な話を聞き「これはいける」と直観したのです。大田さんは少し迷っておられたので,だいぶそそのかさせていただきました(笑い)。

大田 AIの技術開発では,いわゆるGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon.com)を中心としたアメリカ企業や中国企業が大きな影響力を持っています。その中で日本の存在感をどう示していけるかが大きな課題です。

山口 私は,平成2年に初当選して以来,約30年自由民主党の情報戦略調査会にかかわってきました。近年,深層学習の登場でAIが急浮上すると同時に,IoTの普及によってAIが必要とするビッグデータが手に入るようになり,それをGAFAなどが独占しようとしていることに危機感を抱いています。

大田 状況を打開するには日本企業の特性を生かした戦略が必要だと思います。例えば,GAFAなどが注力しているのはB(企業)to C(消費者)のモデルで非常に汎用性の高いものです。それに対して,B(企業)to B(企業)のモデルには,顧客ごとに緻密かつオーダーメイドのシステム設計が必要となります。それは日本人が強いところだと思います。

山口 GAFAが集めているデータは膨大で,いまさらかないません。しかし一方において,製造業をはじめ企業の現場から得られる良質なデータでは,おそらく日本は負けていない。

大田 おっしゃる通りだと思います。いま深層学習などの研究領域においても,データの量より質が結果に大きな影響を与えるという流れになっていますので,そこにこそ日本の強みがあるのではないでしょうか。


現代数学への理解を高める教育を

大田 そして,「質の高いデータとは何か」という根源的なところに数学があります。例えば,データの質の高さを客観的に判断する基準として,より抽象的かつ汎用的な数学のモデルが不可欠になります。

山口 数学の重要性が増すなか,それに教育が追いついていないことが課題です。例えば,大学では文系,理系がはっきり分かれ,文系ではあまり数学が重視されていませんでした。しかし,最近では文学部の学生でも数学を必修にすべきというような議論が行われるようになり,政府の基本方針の中にようやく入ってきました。

大田 私は,東京大学の1年生に線形代数の授業を行っていますが,これは高校の数学の延長ではなく大学で新たに扱う数学。現代数学の入口なんですね。そこで東大生といえども戸惑う学生が多く挫折しがちです。単位は必修なんですが,深いところまで理解しようとしない。それがいちばんもったいないことだと思っています。

山口 国もその重要性はわかっているつもりです。大学で必修にするのはもちろん,初等教育で順列組み合わせなど統計的なことをやりたい。具体的な事例でやりたいですね。文系で会社の社長になったとき,AIとはどういうものかがわからないとどうしようもないですからね。

大田 絶対必要なものですね。


AIロボットがモノづくりを救う

山口 AI開発における日本の強みとして,ロボットと合体したAIもあると思います。これで何とか勝負できないかなと考え「頑張れ,頑張れ」と応援団長をやっています。

大田 ありがたいことです。Arithmerの研究開発は3つに分かれていて,一つは画像解析,一つはデータベース