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AI Agent Column 8

2025.8.21

AI Agent導入step2 “選定”

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前回(第7回)は、AI Agent導入の最初のステップとして「理解」についてご紹介しました。

今回はAI Agentの適用する業務の選び方についてお話します。

 

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業務選定の3つの軸

 

AI Agentは急速に進歩してはいますが、まだ万能なわけではありません。その得意不得意を理解し、得意な領域の範囲で適用することが極めて重要になります。

 

前回の「(1)理解」でお伝えした通り、「AI Agent」は「従来のAI」以上の難しさがあります。従来のAIなら、「十分なデータがあり、判断基準が明確な業務」であれば、比較的適用の見通しが立てやすい側面がありました。しかし、AI Agentは、LLMを中核とし、タスクの分解や自律的な実行、ツール連携といった複数の技術が組み合わさった複合的なシステムです。そのため、ある業務に適用した場合に期待通りの成果が得られるかどうかの見極めは、従来よりも格段に難しくなっていると言えるでしょう。

 

例えAI Agentの適用が技術的に可能であったとしても、その労力に見合う成果が得られなければ、意味がありません。AI Agent の適用の労力は比較的大きいため、メリットの明確化が今まで以上に重要になってきます。 また、技術的な実現可能性もあり、ビジネスインパクトも十分大きい場合でも、実現できないことがあります。特にAI Agentはタスクの実行をAI に委ねる部分があるため、それが許容されるか、注意が必要なのです。

 

従って、次の3つの軸で評価するのが有効です。

1.  ビジネスインパクト: 導入による業務改善の効果が大きく、企業戦略とも合致するか

2.  技術的な実現可能性: 必要なデータやシステム環境が整い、実装が可能か

3.  業務適用の実現可能性: 法的・倫理的な問題なく、利用者・関係者にも受容されるか

 

1. ビジネスインパクト

(Business Impact)

AI Agentを導入することで、どれだけのビジネス価値が見込めるか、という観点です。

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1-1 明確なニーズ

(Clear Demand):

解決すべき具体的な業務課題が存在し、当事者がその解決を切実に求めているか?

 

1-2 定量的な価値

(Quantifiable Value):

課題解決の効果を、売上増やコスト削減といった金額で示すことができるか?(※AI Agentの効果には、創造性支援など定量化しにくい価値もありますが、敢えて定量的に示すことが重要です。価値を定量的に示せない取り組みは組織から長期間継続的にサポートを得るのが難しいからです。)

 

1-3 ビジネススケーラビリティ

(Business Scalability):

その取り組みが特定の部門だけでなく、広く応用可能で、投資に見合うだけの効果拡大が期待できるか?

 

1-4 戦略との整合

(Strategic Alignment):

取り組みが、自社の中長期的なビジネス戦略やDX戦略と方向性が合っているか?

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2.  技術的な実現可能性

(Technical Feasibility)

次に、AI Agentを実際に構築・実装できるか、という技術的な観点から評価します。

2-1 適度な難易度

(Appropriate Difficulty):

難しすぎず、現実的な期間・コストで実現が見込めるか?(※AI Agentの適用について事前に期間・コストを見積もることは非常に難しいですが、技術動向や事例を基にあたりを付けることが重要です。)

 

2-2 ドメイン知識に非依存

(Domain Knowledge Independent):

AI Agent技術者主体で検討を進められるか?(※ もちろんドメイン知識を扱うことは避けては通れませんが、下記の2点のようにドメイン知識をデータ化・形式知化によって、モジュラー化できることが重要です。それができない場合、AI Agent技術者自身がドメイン知識を習得するまで、プロジェクトが進まなくなってしまいます。)

 

2-3 入出力のデータ化

(Data Availability):

判断や評価に必要なインプット・アウトプットデータが、利用可能な形で記録されているか?  あるいはすぐ記録して蓄積できるか?

 

2-4 手順の形式知化

(Documented Procedures):

従来の人の業務プロセスが文書化されていたり、ログに記録されていたり、または、ヒアリング等で明確化できるか?

3.  業務適用の実現可能性

(Operational Feasibility)

インパクトがあり技術的に作れても、実際の業務で利用され、定着しなければ意味がありません。最後に、現場での運用面から実現可能性を評価します。

3-1 コンプライアンス

(Compliance):

法規制、社会倫理、業界ルール、自社のポリシー等に適合しているか?

 

3-2 非クリティカル

(Non-critical):

AI Agentの誤動作リスクを考慮し、致命的な問題に繋がらない業務か? あるいは、クリティカルな判断については人間が介入するような運用設計が可能か?

 

3-3 関係者の受容

(Stakeholder Acceptance):

現場担当者をはじめ、関係者の協力が得られ、業務プロセスの変更も受け入れられるか?

 

3-4 システム連携可

(System Integration Ready):

当該業務の前後の業務が既にシステム化済みで、かつ、API等で容易に連携できるか?

選定を進める際の注意点

最後に、選定を進める上で特に心に留めておきたい点を3つ補足します。

 

第一に、これら3つの評価軸は、単に平均点が高ければ良いというものではなく、どれか一つでも致命的な問題があれば、その業務への適用は現実的ではありません。インパクト・技術・業務適用の全ての軸で、最低限の基準を満たしているか、という視点を持つことが重要です。いわば、掛け算のように、一つでもゼロに近い要素があれば、全体としての価値は生まれないのです。

 

第二に、「技術的な実現可能性」は時間と共に変化しうる、という点です。AI技術の進歩は非常に速いため、現時点では難しいと判断された課題が、近い将来には解決されている可能性も十分にあります。常に最新の技術動向にアンテナを張り、時間軸も考慮に入れて判断していく必要があります。

 

第三に、「業務適用の実現可能性」は見落とされがちだが、極めて重要である、という点です。特に、企画担当者とAI技術者だけで検討を進めていると、現場の運用実態、関係者の協力や受容度、コンプライアンス上の課題などを見過ごしてしまうことがあります。検討の初期段階から、現場や関連部署を巻き込み、多角的な視点を取り入れることが鍵となります。

 

これらの点を踏まえ、多角的かつ現実的な視点で業務を選定すること。それが、AI Agent導入プロジェクトを成功に導くための、最初の、そして極めて重要な関門と言えるでしょう。

 

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さて、次回(第9回)は、ステップ3「設計」です。選定した業務に対して、AI Agentをどのように業務プロセスに組み込み、システムとして、また運用としてどのようにデザインしていくべきか、その具体的な考え方について解説します。ぜひご期待ください。

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