Home > アリスマーアイ > 日経サイエンス特別対談vol.5

自動車保険の事務処理を効率化

長い歴史のなかで人々の安心・安全を守ってきた損害保険に対する社会のニーズが変わってきた。背景にあるのはCASEなど自動車技術の革新や温暖化による自然災害の激化だ。
こうしたなか始まったのは、損害保険会社が蓄積してきた良質なデータをAIで解析することにより、次世代のリスクマネジメントを提供するサービスの創造だ。

三井住友海上火災保険株式会社 デジタル戦略部長

本山智之

早稲田大学商学部を卒業後、大正海上火災保険株式会社(現三井住友海上火災保険株式会社)入社。神奈川静岡本部部長、公務開発部長などを経て2019年4月より本職。

大田 2016年に東京大学発の数学ベンチャーとして設立したArithmerが三井住友海上と一緒に仕事をさせていただくようになったきっかけは、経済産業省主催のマッチングイベントでした。そこで社員は私1人という駆け出しの企業の話に最も共感していただいたのが三井住友海上で、その後アドバイザリー契約を結ばせていただきました。

本山 新しい技術にチャレンジしていこうという大田さんの姿勢に私たちは共感し、月1回、我々が持つさまざまな課題をArithmerに相談することになりました。世の中が刻々と変わり、従来の保険ビジネスだけではなく、新たな発想が求められるなか、保険ビジネスの専門家ではない大田さんが、私たちの相談に対して「こんなこともできる」と斬新な提案をしてくださったことは大きかったですね。

大田 私たちは、数学には世界を変える力があり、これまでなかったものを作りたいと思ってArithmerを設立しました。それを理解してくださる企業に最初に出会えたのは幸運でした。

本山 最初の協業は自動車の事故画像を読み込み、損害部位や損傷程度を瞬時に判定するAIの開発でした。今までアジャスターが現場に出向き自動車の損傷箇所をチェックしていましたが、現場社員が損害箇所の写真をスマホで撮り、システムに連携し、AIが画像解析をすることにより、一層の業務生産性の向上が図られ、迅速な保険金支払いにつなげることができました。今後は、自動運転やシェアリングエコノミーなど、多種多様な乗り物の事故解決方法について考えていく必要があります。

OCR,NLP,危機管理システムを開発

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大田 Arithmerの画像解析を評価していただいたことは、新たなAI-OCRシステム開発につながりました。日本では、まだ紙を使用した業務が多く、それを効率化するために電子化するには課題があったのです。特に手書き書類の文字認識は難しく、既存のエンジンの認識率は5~6割でした。こうしたシステムを取り入れた企業では、残りの4割を打ち直さなければならず、それなら最初から打った方が早かったということになりました。Arithmerが構築したシステムは、90%以上の認識率を出し、採用につながりました。

本山 デジタル化することが目的になり、本来の目的を見失うことは本末転倒です。AI-OCRシステムにより、事務コストの大幅な削減につながった分、社員は創造的な仕事に取り組む時間を作り出す事が可能となるとともに、働き方改革にもつながり、仕事に対する意欲を高めることで人財育成にもつながると考えています。

大田 次の課題は、AIの言語処理技術を生かしたチャットボットの開発です。これまで多くの現場社員が電話で照会していたことを、チャット形式でAIが回答するシステムです。近年、損害保険会社はハザードマップの作成や災害時の避難誘導など、さまざまなリスクマネジメントサービスを提供しています。海外から日本を訪れる人が増えるなか、多言語でのサービスの構築にAIを活用したチャットボットは大きな役割を果たします。また、Arithmerでは災害が起きたとき、被害にあわれたお客さまに対し迅速に対応するため、社員がスムーズに緊急対応拠点へ参集できる危機管理システムを開発しました。各社員の位置情報、首都圏交通網の運行情報や、SNS等の各種情報を解析することで、緊急対応拠点の迅速な決定と、当該拠点までの誘導経路を指示することが可能になります。

本山 損害保険会社は、契約者や事故の相手の方に対して保険金をお支払いするだけのビジネスと考えられてきました。これからは、私たちが長年培ってきたリスクコンサルティングの経験を生かし、お客さまのリスク軽減のためのサービスを提供していきたいですね。

日本を強くする災害時支援ツール

大田 AIを活用した新たなリスク管理の開発において、今興味を持っているのは、レーダーを搭載したドローンを用いて地形データを取得する技術です。最新システムでは水平方向は10センチ四方、高さ方向は1センチごとのメッシュに分けて全ての地形データを正確に電子化することができます。得られた3次元データを独自に再構成し、そこにAIによる流体力学のアルゴリズムを導入すれば、水害が起きたときの被害状況を高い精度で得ることができます。いま複数の自治体とも連携しながらより高精度のシステムを構築する取り組みも行っています。新たな技術は新たなリスクマネジメントサービスの構築に役立つと期待しています。

本山 保険会社にとって蓄積してきたデータは大きな財産ですが、お客さまへのサービス提供の観点では、まだまだそれらを生かしたサービスを提供し尽くせていません。今後は、AI技術を活用することにより、お客さまに今まで以上の安心や安全を提供していきたいと考えています。

大田 業務の効率化で三井住友海上とのお付き合いは始まりましたが、今では国民一人ひとりの安心・安全を民間から先陣を切って進めてこられたのが損害保険会社なのだということを実感しています。一緒に仕事をさせていただいていることを光栄に思っています。

日経サイエンス 2020年2月号

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