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Vol.4

【日経サイエンス特別対談Vol.4】AIが熟練テイラーの“勘”まで再現スマホアプリによる画像採寸システム

AIがオーダースーツの敷居を下げる

いまAI(人工知能)は,ファッションなど身近なビジネスにも,大きな変革をもたらしている。株式会社コナカ(神奈川県横浜市)が展開するオーダースーツブランド「DIFFERENCE」では,Arithmerの技術協力を得て,スマホでスーツやそのほかのアイテムの採寸ができる「DIFFERENCEAIによる画像採寸アプリ」を開発。研究開発の過程では,私たちの生活を便利で快適なものにするための基盤技術も生まれているという。

株式会社コナカ 代表取締役社長CEO

湖中謙介

フィットハウス取締役会長,フタタ取締役を兼務。神戸大学法学部進学後,1982年に日本テーラー(現在コナカ)に入社。91年取締役商品部長,99年常務取締役,2003年専務取締役を経て05年より現職。多業態への展開や東南アジアへの本格進出に取り組んだ。

大田 湖中さんはいつもスーツを見事に着こなしていらっしゃいますね。私は,Arithmerを設立してからスーツを着る機会が増え,オーダースーツの魅力にも目覚めたところです。

湖中 紳士服のなかでスーツの市場は少しずつ縮んでいるのですが,そのなかでオーダースーツだけは毎年2桁以上の伸びを示しているんです。コナカはレディーメード(既製服)を中心に展開してきましたが,お客様の様々なニーズに応えるために,「DIFFERENCE」を立ち上げました。

大田 湖中さんは,オーダースーツを気軽に楽しめるようにするという情熱をお持ちです。そのためにArithmerが協力させていただいているのが「画像採寸システム」の開発です。お客様は,スマホで全身の前後左右を撮影し,身長,体重,性別,生年,シルエットに関する好み,などのデータを入力するだけで,体形に合ったスーツを注文できるようになりました。

湖中 一般の方がオーダースーツに敷居の高さを感じる要因としては,価格の高さと同時に,時間をかけて店舗を訪れ,テイラーによる採寸を行う手間がありました。AIという最新技術を使えば,スマホでテイラーが行うのと同じレベルの採寸ができるのではないかと思いました。大田さんに相談したところ,「できますよ」とご快諾いただいた。これはもうおまかせするしかないとお願いした次第です。

テイラーの暗黙知を学習

大田 大変興味深い開発テーマだと思いお引き受けいたしましたが,実際に開発を担当する研究開発本部次長の佐藤大輔はちょっと身構えたようです。というのも一般にもよく知られた画像採寸システムは,サイズを測る物差しとなるマークを印刷したボディスーツを着用し,画像解析により体の寸法を測るというものです。しかし,湖中さんの説明によれば,テイラーが採寸するのは,単なる体のサイズではありません。お客様の好みに合い,しかも着心地のよいスーツを仕立てるためのデータだといいます。

湖中 例えば,スリムな体形をした方は,大きめのサイズより体にぴったりしたものを選ぶ傾向があります。実際その方がお似合いになると思います。それに対して肩幅の広いがっちりした体格の方は,すこしゆとりのあるものの方がいい。熟練のテイラーは,経験により培った“勘”で採寸を行い,お客様にとって最適なスーツを提案するのが仕事なのです。

大田 こうしたテイラーの暗黙知を,AIにどう学習させるか。佐藤は,機械学習のためのアルゴリズムに何を選ぶか,既存のアルゴリズムでうまく機能するのか,苦労したといいます。課題を乗り越え,AIが少しずつテイラーの仕事を学ぶことができるようになったのは,コナカさんから良質のデータをご提供いただけたからです。

DIFFERENCE 青山店

湖中 開発プロジェクトについてテイラーに説明したときの最初の反応は否定的なものでした。「AIに仕事を奪われる」と感じたのでしょう。画像をもとにArithmerから送られてきた採寸データにも「ちょっと違う」といった意見が多く見られました。それが,AIが学習を進めるうちに「これは使えるじゃないか」となったのです。私たちの目標はお客様の利便性を高めることにあり,より高度なニーズに応えるテイラーとオーダースーツを身近なものにするAIは共存できるのです。

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進化し続けるアルゴリズム

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大田 私たちのAIは今でも進化し続けています。従来のアルゴリズムでは,画像を特徴量ベクトルに変換し属性データも含んだ数字のデータに変換。テイラーの技術を学習したAIが各採寸データを作り出すというものでした。しかし,最近になってAIライブラリーにある人体の3Dデータを活用し,一度お客様の画像から人体の3Dモデルを構築。体のあらゆる場所の採寸が可能になりました。この研究は,今年横浜で開かれた国際会議で発表し,もっとも注目される演題の一つとなりました。

湖中 それはすごいですね。Arithmerの開発のスピードにはいつも驚かされます。そして,進化し続ける技術は,私たちが次に何をすべきか,そのヒントを与えてくれます。例えば,3Dモデルの導入によりシステムの適用を広げるのが容易になったとお聞きしました。現在のアプリは紳士用のスーツの採寸に対応したものですが,いま女性用スーツのためのアプリの開発にも取り組んでいます。また,体形は人種によって異なるため,日本人専用のアプリでしたが,今後は海外向けのアプリの導入も可能になるでしょう。

画像採寸の成果を次のシステムへ

大田 私たちがシステムの開発に力を入れてこられた理由の一つは,コナカさんが研究開発の取り組みに深い理解を示してくれたことです。具体的な成果がない段階で貴重なデータを提供してくれる企業はそれほど多くないのですが,コナカさんは最初の段階から一緒に挑戦してくださいました。

湖中 私たちが得たものも大きいといえます。画像採寸アプリを利用してスーツを注文されるお客様は増えていますが,「期待したものと違う」「着られない」というクレームはほとんどありません。信頼度の高い技術ですから,これからはオーダースーツのみならず,ファッションの世界を大きく変革することになると思います。ネット通販などでも,いつもサイズがぴったり合った着心地のよい服を購入することができます。私たちは,現在のシステムを応用し,店舗でレディーメードを探す場合に,簡単な操作でサイズ合わせができるようなシステムに応用したいと考えています。これは店舗での接客の効率化にもつながります。

大田 コナカさんとの取り組みで宝物を得たのは私たちも同じです。研究開発の過程で新たな画像解析システムのヒントをいくつも得ました。これからも生活を豊かにするAI開発に取り組んでいきたいと思います。

日経サイエンス 2019年11月号

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